phaの日記

パーティーは終わった

編物少女



 学祭で帽子を買った。
 手編みの帽子とマフラーを身につけて、美大生っぽいおしゃれな眼鏡をかけた女の子がちょこんと座って、両手の編み棒をこまめに動かして毛糸で空中に不思議な模様を作り出しながら、帽子を売ってた。
 ぼくはだいぶ前からずっと、よい帽子を売っている店を見つけられなくて困っていたのだけど、その子の売っている帽子はどれも色の加減のセンスが良くて(糸は自分で染めているそうだ)、しかも作りがびっくりするくらいしっかりとしていて、とても気に入った。
 そしてぼくが彼女に好感を持ったのは、彼女がひとの雰囲気をちゃんと見ていることだった。ぼくが並べられている品物を見はじめると、彼女は「これがいいと思います」とひとつの帽子を差し出してきたのだけど、その帽子こそぼくが遠目で店を見たときから「あれが良さそうだな」とずっと気になっていたものだったのだ。ぱっとぼくの容貌や表情を見て雰囲気や趣味をつかみとって、一番合いそうなものを薦めるというのは、服屋のひとはみんなやるべきだと思うけど実際しているひとは少ない。だからうれしくなったのだ。かぶってみると実際その帽子はぼくによく似合って、ぼくはちょっとかわいくなった。
 彼女の作品を置いてある店などがあればちょくちょく通ってもいいと思ったのだけど、こういう学祭でしか売ってないそうだ。非常に残念。店に置いてもらうと高くなるし、ネットで売ると手にとって見てもらえないし、と言ってた。
 名刺を渡して、どこかで売るときは教えてくれたら行くかもしれない、とか言えばよかった。だけど、素敵な女の子を前にするといろいろ意識しすぎてしまって、なかなかそういうのが言えんのですよ。