phaの日記

パーティーは終わった

読了:橋本治『人はなぜ「美しい」がわかるのか』



人はなぜ「美しい」がわかるのか (ちくま新書)

人はなぜ「美しい」がわかるのか (ちくま新書)

 この本で論じられることの中心は「人がわかる「美しい」とはどういうことか。それがわかる人とわからない人がいるのはどうしてか。そして、「美しい」がわかるということは人という存在にとってどういう意味を持っているのか」ということだ(で合ってるかな)。
 橋本治の他の著作と同様、わかりやすい結論や答えを提示することはせず、読者は彼自身がゆっくりとねばりづよくいろんなことを考えていく過程をたどらされる。話題は枕草子からゴキブリの体の構造まで、日本の男論から彼の5歳のときの話まで幅広く揺れるけれど、それが全部つながっている。線的に一つの結論に向かって進んでいくのではなく、「美しい」という問題を中心としながら思考はその周りのあちこちをさまよい歩くのだけど、その過程にある論考やひらめきやエピソードが刺激的で面白く、自分で考えるということをさせられてしまう。
 この本を読んで僕が気づけたことの一つは、この本の中にそういうことが具体的に書いてあるわけではないけれど、「そうだよね、今まではっきり意識してなかったけど、部屋が散らかったままだったり洗い物を流しに放置してたりする人が、理由もよくわからないままさみしさとかむなしさにとらわれてしまうのは当たり前だよね」ということだった。それはもちろん自分のことで、この本を読み終わってすぐに部屋を片付けて洗い物を全部洗って洗濯物を全部丁寧にたたんだ。
 そういう真っ当なことに気づかせてくれるので橋本治が好きだ。その並外れた真っ当さ・分析力・愛情・美意識などを思うと「日本に橋本治がいてよかった」とまで思う。
 本当はそういう真っ当なことを若いのに教えられる大人がもっとそこらじゅうにいるべきなんだけど、今の日本はそういう状況ではないから、橋本治がいつまでも必要とされているのだろう(だってこの人80年代からずーっとこういう仕事やってるんだよ!)。俺ももっとしっかりしなきゃ、と思わされる本です。