phaの日記

パーティーは終わった

クラウドファンディングについて思うこと



先日CAMPFIREで書籍の制作費用を募集した件で、日刊サイゾーの取材ということでライターの今一生さんから問い合わせがありましたので、その返答をここに書いておこうと思います。
(今一生さんからいただいたメールは http://dl.dropbox.com/u/572031/crowdfunding.html に全文を置いておきます。)

★phaさんは「ニート」と自称していますが、アフィリエイト投げ銭、執筆などさまざまな収入手段を活用して生活してきた経緯から「自営業者」として自己紹介するのが事実をフェアに伝えることではありませんか?
(※phaさんは雇用=労働と考え、その労働を自ら降りているため、雇用準備のための教育を受けていない」というニートの定義に当てはまりません)

確かにその通りですね……。働かないためにニートをやっていたはずが、最近ではニートについてブログ書いたり原稿を書いたりするのがもはや仕事みたいになってきて、なんだか自分でも何をやりたかったのかよく分からない感じがします。
今一生さん言うところの「ネオニート」(Amazon.co.jp: 親より稼ぐネオニート―「脱・雇用」時代の若者たち (扶桑社新書): 今 一生: 本)と名乗るのが良いのかもしれないですが、ネオニートというのが正確に自分にあてはまるのかどうかもよく分からず、名称には自分でも迷っているところです。できるだけ働かずに生きていきたいというこころざしは今でも変わらないんですが。

★今回の資金調達に使われるのは「本の制作費」ではなく、phaさんの「一か月分の生活費」と伝えるのがフェアではありませんか?
(※通常、書き下ろしの本を書く際の資料代は、確定申告の際に申告すれば、
 phaさんの場合、低収入ですから還付されてくるので、相殺されます。
 すると、phaさんcampfireを通じて求めている支出分のほとんどは生活費です)

「通常、書き下ろしの本を書く際の資料代は、確定申告の際に申告すれば、phaさんの場合、低収入ですから還付されてくるので、相殺されます。」って本当でしょうか。それは源泉徴収されたお金が一部分返ってくるってだけではないのでしょうか。資料代が全額返ってくるんですか?
本を書くような仕事の場合、生活費も本の制作費に入るんじゃないでしょうか。家賃や光熱費の一部を経費として申告している人もいますし、やっぱりちゃんとご飯食べないと文章を書くなんていうハイレベルな作業をする気が起こらないんですよね……。たまには肉とか寿司とか食ってMPの補充をしたいし(それが公的に経費と認められるかは知りませんが私的にはありだと思います)。

★出版社の担当編集者に問い合わせたところ、「7月頃の発売は予定しているが、著者に早く書けとプレッシャーを与えたことはない」そうです。
 だとしたら、phaさんは10万円程度の金を急いで作る必要はないわけで、制作後に考えているというバイトを制作前に取り組めばいいだけになります。
 そして、10万円がたまったら、その時点から書き上げればいいのであって、わざわざ他人様のお金を緊急に当てにしないと本が出来ないわけではありません。
 しかも、10万円程度なら、ギークハウスなどの友人5人に2万円ずつ一時的に借りたり、親や担当編集者、出版元などに一時的に立て替えてもらえれば、調達可能ですよね?
 印税が入金した後に返せることは確定しているわけですから。
 借金が嫌な場合でも、家入さんに10万円分のプログラムの仕事をもらうということもできたはずですが、そのほうが、あれこれプロジェクトについて面倒なことを書くだるい作業をしなくて済んだように思うのです。
 つまり、10万円は、どうしてもcamfireを使わないと集められない額面ではないはずです。
 それをふまえると、phaさんがcampfireのサービスの恩恵を受ける正当性はどこにあるのでしょうか?

別にどんな方法でお金を調達してもいいんじゃないですかね。友達に借りるのとCAMPFIREを使うのとに優劣はなくて、「CAMPFIREを使ってみたほうが面白そう」「一度クラウドファンディングを使ってみたかった」というくらいの理由ですね。

正当性というのがよくわかりません。今一生さんは何が正当性だと考えておられるのでしょうか。

★僕自身は、心身いずれかの病気や障害などの諸事情でニートにならざるを得なかった
若者たちを取材してきたので、ニートで一生暮らして生きたい人の気持ちは察しますし、会社に雇われなくても自分のペースで好きなことで無理なく収入を作る術を実現し、高収入を得ているニートについて『親より稼ぐネオニート』という本を書いています。
 また、僕自身もやりたくないことはしたくないし、一生遊んで暮らすために、自分がしたいことしかしませんし、したいことをまったりやることがそのまま収入になることしかしていません。

それはいいですね。うらやましいです。

 そういう僕から見ると、phaさんは単純に自分のペースで自分のしたいことをやるだけで金が入る仕組みをあまり知らないように見えます。
 ただ、そういう場合、campfireのようなクラウド・ファンディングを使うと、1発目は成功しても2回、3回と続けるうちにジリ貧になってしまうリスクがあるので、いわば本当に切実に困った時の最終手段にしておかないと、いざというときに困ることになりかねません。
 それでも、今後も機会があれば、campfireなどのクラウド・ファンディングによる資金調達を考えていますか?

また何か、「いろんな人を巻き込んで、いろんな人に助けてもらって何かやりたい」って思えるプロジェクトがあったら、利用すると思います。

★僕は心身いずれかに病気や障害などがあって、生活費も稼げないニートの若者がcampfireで資金調達できたらいいと思っていますが、phaさんのプロフやブログのどこを見ても、心身ともに健康で、働けないのではなく、働きたくないだけのように見えます。
 そういう理屈は世間を敵に回しかねず、実際、お金を出さない人のなかには、phaさんに対して批判的な発言をする人もいます。
 phaさんは、本当に心身ともに健康なのでしょうか?
 あるいは、働けない(=自営業も出来ない)切実な事情があったなら、なぜそれをcampfireで公開しなかったのでしょうか?
(※もし後者なら、campfireを多くのニートが使える正当性ができるので、多くの人に
ベーシックインカムと同様に希望を与えるメッセージになった気がするのですが)

僕は自分が心身ともに健康だと思っていますが、病院には行っていないので医者がどう判断するかは分かりません。労働には向いていないと感じています。あと、「働きたくない」と「働けない」の境界ってはっきり決められないんじゃないでしょうか。「死ぬほど異常に何がなんでも働きたくない」という人は「働けない」とほぼ同じです。そして、単に「働きたくない」とか「だるい」という理由でクラウドファンディングを使っても別に構わないと思っています。

★ホームレスなどの貧困層にお金を与えると、生活費にお金が消費されるだけで、貧困生活そのものは改善されません。
 そこで、最近のホームレス支援では、彼らが自助努力で自分の好きな作業をして収入が派生する仕組みを作ってあげる支援が世界的な潮流になっています。
 それが、貧困者自身が自分のペースで自分のやりたいことで自立していけるからです。
 いわば、魚を与えるのではなく、釣りの仕方を教えるという解決方法です。
 今回のphaさんの場合、お金が入っても生活費で消えていきますよね?
 なぜ、お金そのものではなく、自分がしたいこと(プログラム?)と希望ギャラ額をつけて収入にするという方法(=好きな仕事をやって稼ぐ)を採用しなかったのですか?

だるいしめんどくさいからです。趣味でプログラミングをするのとプログラマとして働くのって、家で自分で料理を作るのと料理屋で働くのとぐらい違う、だるいことですよ……。

 そうすれば、単発の入金ではなく、仕事の評価でどんどん新たなやりたい仕事につながっていき、通帳に継続的に振込が続いていきます。
 それは今回の63万円よりも手堅く、しかもさらに多いお金が入ることになり、それゆえかなりゆっくりめの仕事として、ほとんど遊びながら暮らしていけることになるので、なぜいきなりcampfireを使ったのか、不思議でなりません。
 そこで、あえて質問しますが、家入さんに自分のやりたいwebサービスをプレゼンし、制作代金をオファーするということはしましたか?

「家入さんに自分のやりたいwebサービスをプレゼンし、制作代金をオファーする」ということはしていません。家入さんはクラウドファンディングの運営に関わっているだけで、ウェブサービスを募集しているわけではないと思いますよ……。

「それは今回の63万円よりも手堅く、しかもさらに多いお金が入ることになり、それゆえかなりゆっくりめの仕事として、ほとんど遊びながら暮らしていけることになる」のもかなり甘い見通しな感じがします。そんなに少ない労働量でウェブサービスをうまくマネタイズできるものなんでしょうか。好きなものを作りながらヒットするウェブサービスを作るのってかなり大変だと思いますよ。

あと、僕はウェブサービスをいろいろ作ったりはしていますが、圧縮新聞 (asshuku) on Twitterみたいなクソの役にも立たないお金にはならないものが多いです。どうでもいいものを作るのが好きです。

「そういうものでも工夫すればお金にできる」とか言う人もいるけれど、「なんでも仕事にできる、お金になる」っていう考え方は不健全だと思うんですよね。世の中にはお金には全くならないけど面白いものはたくさんあるし、それを金銭化するとその良さがなくなってしまったりするし。

★結果的に63万円以上を調達しましたが、10万円を超えたお金(50万円以上)は、生活費や本の広報費など自分の私利私欲のために使うのでしょうか?
 クラウド・ファンディングは、他のプロジェクトを見ればご存知のように、個人の私利私欲を満たすものではなく、社会的弱者を救うなど「みんなのため」に資金調達するために設けられたサービスですが、それでも、あくまでも50万円以上のお金を自分のためだけに使う予定ですか?
 それとも、自分よりもっと切実にお金や仕事がなく、今にも死にそうなニートの若者たちのつなぎ資金として、campfireの別のプロジェクトなどを通じて還元していく予定はありますか?
 後者であるなら、どこのニート支援団体にいくらを資金援助していくご予定なのか、教えてください。

CAMPFIREのページにちゃんと書いてあることなのですが、支援してもらったお金がそのまま僕の利益になるわけではありません。リターン(お返し)を結構奮発して設定しているので、プランによっては申し込み数が増えるほど赤字になる感じです(1500円のとか2500円のとか)。それでも募集したのは、「CAMPFIRE経由でお金が入る」と「本が出版されてリターンをみんなに配る」の間にタイムラグがあるから、とりあえず本が出版されるまでもてばいい、という考えからです。

それでも今回は高額プランを申し込んでくれたお大尽な方々に恵まれたおかげで全体として黒字になりました(本当にありがとうございます)。まだ不確定要素があるので正確な数字は出せないのですが、CAMPFIREの手数料(20%)を引いて、リターンを調達する代金を引くと、十数万は残るんじゃないかと思っています(ただし、数百冊の本を発送したり追加の文章を書いたり何百回もツイートをしたりなどの、リターンにかかる人件費は抜いた計算でですが)。

しかし、「自分よりもっと切実にお金や仕事がなく、今にも死にそうなニートの若者たちのつなぎ資金として、campfireの別のプロジェクトなどを通じて還元していく予定」はありません。なぜなら、これは「phaが本を作るための資金」としてパトロンの方からカンパしていただいたお金なので、それと関係ない用途に使うのはパトロンの方々への背信行為だからです。余った資金については「ウェブ版追加コンテンツの作成」「関連グッズの作成・配布」「販促的な何か」などで使いきってしまう予定です。


それにしても、

クラウド・ファンディングは、他のプロジェクトを見ればご存知のように、
個人の私利私欲を満たすものではなく、社会的弱者を救うなど「みんなのため」に
資金調達するために設けられたサービスですが、

というのはちょっと偏ったクラウドファンディング観じゃないかと思います。

そもそもクラウドファンディングは「少額のお金を多くの人から集める」というだけの仕組みで、社会公益のためにしか使えないものではありません。クラウドファンディングの本家本元であるKickstarterなんかは「単なるチャリティーには使えない」ってはっきり言ってますし、CAMPFIREもそれに近い運営方針だと僕は思っています。CAMPFIREは「クリエイター支援のためのサービスだ」ってことになっていますし。クラウドファンディングが「新製品の予約注文+α」みたいに使われている例はとても多いです。

もちろん、「ビジネスではうまくお金が集まらないような社会福祉的な用途にお金を集める」というのもクラウドファンディングの一つの用途ではありますが、それだけに絞って他を否定してしまうのはクラウドファンディングの可能性を殺すことになります。


僕自身がクラウドファンディングをどういうものだと捉えているかというと「何かをやりたいときに、それを面白いと思ってくれている人たちを少しずつたくさん巻き込んで、作り手とユーザーの結びつきを単なる購入とか寄付以上に強くして、なんかみんなで楽しいことをする」っていうものです。僕はそのへんが面白そうだと思って今回CAMPFIREを使わせてもらいました。お金を貰うだけのことを考えたら、何十人もにお薦めの本を選んだり、百何十冊の本にサインしたり発送したりとかそんなめんどくさいことやらないですよ……。

ついでに愚痴ると、日本のクラウドファンディングはチャリティーとか福祉ぽいものばっかりでワクワクするのが少なくてつまんないと思うんですよね。チャリティーや福祉ももちろんあっていいし必要なんけど、それだけだともったいない。クラウドファンディングの仕組みはもっといろんなことができる可能性があるはず。もっとワクワクするような、ここでなにか新しいとんでもないことが始まるような、その世界の変化に自分もそれに少しでもいいからコミットしておきたいと思わせるような、そんなプランがもっと登場してほしいと思っています。「Alarm BRICK」なんかはちょっとグッと来たけど。

あと、「ちゃんと真面目に人の役に立つ仕事をして対価をもらう」というだけじゃなくて、もっとよく分かんない感じで適当にお金が動いたらもっと世界が面白くなると思うんですよね。くだんないけどお金振り込んじゃったとか、どうでもいいものをつい勢いで買ってしまったとか。人間がお金を使う理由が全て理性的であるわけはないし。そういった、お金にある程度余裕のある人がくだらない理由で使ったお金を集めて生きていけたら楽しいなと思います。まあなかなか実際には難しいでしょうけれど。