phaの日記

毎日寝て暮らしたい

『映画:フィッシュマンズ』を見た

『映画:フィッシュマンズ』がめちゃめちゃよすぎたので何か書きたくなった。

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フィッシュマンズの映画として完璧だったと思う。こまめにライブシーンが挟まれるので170分が長く感じなかった。映画が苦手めな僕が、もう一回見てもいいな、と思った。


しかし、フィッシュマンズが今でも人気というのはすごく不思議な感じがする。今年映画が公開されて、海外でも音楽が高く評価されているらしい(フィッシュマンズ、“再評価”と海外における“熱狂”が示す可能性…「172分」大作ドキュメンタリー映画が7月公開|日刊サイゾー)。
僕はもう20年以上フィッシュマンズを聴いているのだけど、完全に懐古でノスタルジーでモラトリアムのつもりで聴いていた。いい年してずっと昔の曲ばっかり聴いてる老人みたいなつもりで聴いていた。だけど、それが今でもそんなに古びてなくて、今でも普通に評価されていることに、少し戸惑っている。

ドアの外で思ったんだ あと10年経ったら
なんでもできそうな気がするって
でもやっぱりそんなのウソさ
やっぱり何もできないよ
僕はいつまでも何もできないだろう

フィッシュマンズ "IN THE FLIGHT"

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5年前に書いた記事(冬とカモメとフィッシュマンズ)でもこの「IN THE FLIGHT」の歌詞を引用した。
10年経ってもずっと変わらないで、何もできない自分でいたいというモラトリアム。歌詞もひたすらに内向的で、コード進行も延々と同じ4つのコードをぐるぐる回しているだけの、自閉の極みのような曲。
こんな感じの曲は、年をとって成長したらもう聴かなくなるものだと思っていた。
だけど未だにずっと聴いているし、今の若い人たちにも聴かれている。
佐藤伸治はひたすら自分の世界を内へ内へと掘り続けた結果、いつの間にか普遍性を手にしていたのだ。


映画を見て思ったのは、フィッシュマンズが思ったよりもバンドだった、ということだ。
僕は佐藤伸治が亡くなった2年後くらいに後追いで聴き始めたので、印象が強かったのは後期の、メンバーが3人になって、どんどん内側に潜っていくような音楽性の時代だった。だけど映画を見ると、初期は小嶋さんとかハカセとかがいて5人で、もっと売れようとしてたけどうまくいかなかったとか、いろいろあったというのを感じられたのがよかった。
なんか、佐藤伸治がその音楽性を突き詰めていくにつれて、メンバーが一人ずつ脱落していった、というあたりが、とても切なくて、そしてこういうのこそがバンドだな、という感じがあった。
人が集まって、仲良く盛り上がって、でもうまくいかないところも出てきて、少しずつすれ違っていく、これがバンドなのだよな。一人で音楽をやるのでは生まれない部分だ。


ブログ「空中キャンプ」の伊藤聡さんがフィッシュマンズについて語るスペースをやってたので、おじゃましてちょっと話していたのだけど、「後期の世田谷三部作がやっぱりすごいからよく話題に出るけど、あのへんは突き詰めすぎて息が詰まりそうなところもあるので、初心者はもっとポップな初期とか中期の曲から聴き始めたほうがいいんじゃないか」という話が出ていた。確かにそうかも。
いきなり「IN THE FLIGHT」とか「ゆらめきIN THE AIR」とか聴くと、彼岸の匂いが強すぎて入りにくいかもしれない。初期中期は楽しいバンド感があっていい。「いかれたBaby」とか「チャンス」とか。このへんから聴くのはおすすめ。

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そしてやっぱり欣ちゃんがよかった。
欣ちゃんがインタビューで「僕はフィッシュマンズの音楽が大好きで、この人生でフィッシュマンズの音楽に出会えて本当によかったです」とか言うんだけど、ファンかよ、って思った。本当にサトちゃんが好きすぎるんだな。そんな欣ちゃんの無邪気さや明るさが、フィッシュマンズを支えていたんだな。

佐藤伸治がいなくなってからのフィッシュマンズはあまり聴いていなかったのだけど、この映画をきっかけに見てみたら、予想外によかった。

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佐藤伸治が作り上げたフィッシュマンズという巨大なイメージのもとに、現代のさまざまな才能が寄り集まっていく、という感じでいい(個人的には勝井祐二のバイオリンがかなり勝井さんぽい感じで、これはフィッシュマンズと勝井のコラボだ、と思ったら楽しくなってきた)。フィッシュマンズの曲はそれを受け止めるだけの普遍性やスケールがある。

もう20年はフィッシュマンズを聴いてるけれど、あと10年は変わらず聴いていると思う。

インターネット文学とは

はてな20周年を記念して、はてなインターネット文学賞というのが開催されるそうだ。
インターネット文学と言うからには、それは本屋で本を買えば読めるような文学とは全く違うものであってほしい。
本や雑誌では絶対に読めないようなわけのわからないものが読みたい。書籍化や収益化を狙っていそうなブログなどは論外。世間的な評価や金銭的な見返りを求めて書くのではなく、文脈不明のエネルギーのほとばしりが衝動のままにネット上にぶちまけられたような文字列。あとに残って長く読まれることなんて全く考えず、時間が経てば一体何のことを書いているのかもよくわからなくなってしまう、日々ネットに生まれてはすぐに消えていく無数のあぶくのような営み。僕はネットを見るとき、そんな虚無へと捧げる供物のような文章が読みたいといつも思っている。
そうした文章の一つの極北として、次の記事を紹介したい。

tender-mountain.hatenablog.com

昔のネットにはこうした感じのいびつな情念に溢れた長文がたくさんあったものだけど、かつて多くの人を魅了したあのブログもあのブログも既に消えてしまっていて、今ではWayback Machineの奥底にその痕跡を残すのみだ。寂しいけれど、仕方ない。すぐに消えてしまうからこそ強く輝くものはあるのだろう。


はてなブログでは、7月15日(木)から特別お題キャンペーン「はてなインターネット文学賞」を実施しています。この記事はキャンペーンの一環として、phaさんに「インターネット文学」について執筆いただきました。(はてなブログ)

結局みんなキャッキャウフフしたかっただけなのか

はてな村ぽい話題が久しぶりに上がっていたので僕も何か書いてみることにする。


orangestar.hatenadiary.jp

p-shirokuma.hatenadiary.com

orangestar.hatenadiary.jp


昔はこういう話題があったらみんなその話題にむらがって何十ものブログが書かれていたのだけど、今はもう数えるほどになってしまった。今ではシロクマ先生が一人で孤軍奮闘してはてな村を守り続けているような印象がある。
僕がはてなブログを書く人が減っているなと感じたのは、毎週集計されているはてなブログランキングに、50ブクマも得ればランクインしてしまうようになったということだ。昔は250ブクマくらいないと入らなかったのに。

書く人が減ったのは僕らの世代が年をとってしまったということに加えて、ブログが流行っていた時代が終わってしまったというのもあるんだろう。そのブログブームの前にあった、テキストサイトブームが終わってしまったときと同じように。


はてな村と言ってまず思い出すのが、「キャッキャウフフ(ネット上で仲良く絡み合ってる様子)」「クネクネ(ネット上で仲良く絡み合ってる様子)」「けまらしい(ネット上で仲良く絡み合ってる様子がねたましい)」などといった独特の用語がよく使われていたということだ。
結局、なんでみんなあの頃のはてな村でブログを書きまくっていたのかというと、ネット上の人たちと仲良く絡みたかったという理由が大きかったんだろう、と思う。人間は人間関係を求める生き物。
そして、ブログよりも手軽に簡単に人と仲良く絡めるツイッターなどのSNSが普及したことで、みんなブログをあまり書かなくなってしまったのだろう。長文を書くのなんてめんどくさいもん。長文を書くというのは一種の特殊技能なので、ツイッターやインスタやYouTubeやTiktokとかに行く人が多いんだろう。
今だとネット上で仲良くしてる様をわざわざ「クネクネ」とか言って揶揄するほうが違和感がある。だって、今のネットというのはそのためにあるツールだから。馴れ合いではなく硬派にガチの記事を書き続けるのがネットの本道、という空気があった昔のほうが、今となっては不思議な気がする。そんな令和の世の中です。


anond.hatelabo.jp


昔はWeb2.0(って10年ぶりくらいに言った)とかいう言葉が流行っていて、「ネットにいろんなものをアップロードしまくれば世界は良くなる」というぼんやりとした雰囲気のもとに、みんながいろんな情報をむやみにネット上に公開しまくっていた。ブログを書いてトラックバック(これも10年ぶりくらいに言った)を送りまくってネット上に知の議論空間を作り上げよう、とかそういうのがあった。あの頃はブログを書けば世界が無限に広がっていくような気分があった。
しかしネットがどんどん多くの人に普及するとともに、ネットに何でもフルオープンすることの闇の面もたくさん現れてきて、そんなにネットって理想郷じゃないことがわかってきて、そういう楽天的な雰囲気は消えてしまった。


しかしあの頃みんなこぞって長文を書いていたからこそ、生まれた面白い文章がたくさんあったと思う。はてな出身の書き手もたくさん出た。はてな社の編集を通じてオウンドメディアなどで記事を書いている人も多いし、本を出した人もたくさんいる。それはあの時代が生んだ遺産だと思う。


yamdas.hatenablog.com


今はちょっと長い文章を書く人はnoteを選ぶ人が多そう。なんかシンプルでテキスト向きっぽいし、課金もできるし。しかしそこにははてなみたいなコミュニティ感はないな、と思う。はてなのブログとブックマークが入り混じって独自のコミュニティを作っていたあの感じが稀有なものだったのだろう。
はてなでしかできないこと、というのは特になかったと思う。今だって、ネットの人間と戯れたければTwitterをやればいいし、創作をしたければなろうに行けばいいし、自分語りをしたければ増田に書けばいいし、文章をお金に換えたければnoteを使えばいい。でも、そのどれもが渾然一体と入り混じっていて、みんな理解不能な情熱をもって毎日のように大量のテキストをインターネット上に投下していた混沌としたはてな村が僕は好きだったのだ。そこで僕は育ててもらったし、多大な影響を受けた。
これはただの、あの頃はよかったなあ、という感傷だ。もはや感傷くらいしか、僕には書くことがないのだ。


pha.hateblo.jp

p-shirokuma.hatenadiary.com

俺たちが無料で書く営みのなかには、もともと、かけがえのない何かが含まれていたのだと思う。もちろんすべての表現は混合物だから純粋無垢だなんていうつもりはありませんよ。だけどあの頃、無我夢中で文章を書いていた頃には、計算も売上も締め切りもない、自分自身が書かずにいられないパトスの結晶みたいなものがあったはずだ。

俺はまだ、そういうパトスの結晶みたいなものを抽出すること、それも、お金や利害のあまり関与しない場所にアップロードすることにかけがえのなさを感じているから、まだこの「シロクマの屑籠」を続けているし、こうやって計算や売上や〆切とは無関係な文章を打ち続けている。リスクとベネフィットの観点からすれば、こんな無駄なことはすべきではないのかもしれない。でも、これがなくなってしまったら、あなたは、いや、おれは、一体何者になってしまうのか?


僕の場合は、自分がわりと完成してしまった(自分のことが大体わかってしまった)のと、既に人間関係をだいぶ確保できてしまったので、そうすると書くモチベーションがそんなになくなってしまった、という感じだろうか。シロクマ先生の業はまたそれとは違うところにあるのでしょう。それがどんなものかははっきりとはわかりませんが、書き続けるモチベーションを持ち続けているということについては、少しうらやましく思います。人間は何かに夢中になっているときが一番幸せなものだから。


書くことがなくなった

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気づいたらインターネットで書くことが特にないな、という状態になっていた。ツイッターとか何をつぶやいたらいいかわからない。

もともとツイッターとかで熱心につぶやいていたのは、ネットにいるたくさんのよく知らない人たちに曖昧にちやほやされたい、という自己顕示欲があったからだったのだろう。

年をとったせいか、知らん人に別にそんなにちやほやされたくないなー、という気分になってきた。興味のある人には直接連絡を取って話せばいいし、人間関係をむやみに広げたいという気持ちもなくなってきた。

昔はネット上で流行ってる話題に乗っかっていっちょかみしたり、仲良くなりたい人にエアリプしたりなんかもしてたけど、もう全くそんなことする気がしない。

そうすると、つぶやくことを何も思いつかなくなってしまった。もともと、つぶやく必要があることなんて特に何もなかったのだろう。

なんかいろいろできあがってしまったんだな。これから何をやって生きていこうか。

最近の活動

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あまり外に出る気力がないので季節や日付の感覚があまりないのですが、気づいたらいつの間にか春になってびっくりしました。3月、何もやってないのにもう終わりそうだ。
近況として、最近の活動について貼っておきます。


suumo.jp

玉置標本さんに、今までの人生の振り返りみたいな話を聞いてもらって、そのあとラーメンを作ってもらいました。人に話を聞いてもらうのも、自分で書くのとは違っていいですね。


bookoff-tachiyomi.jp

ブックオフについての思い入れを語りました。ブックオフに行くとなんか心が落ち着くんですよね……。


suumo.jp

マンガに出てくる家で住んでみたいものということで、『美味しんぼ』の山岡さんが住んでいた家の話を書きました。普通の家には住みたくないという気持ちがずっとある。


www.loft-prj.co.jp

あと、3月30日にジェーン・スーさんと能町みね子さんと配信のトークイベントをやります。よかったら見てね。

3/30(火)「漠とした3名」

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みなさんお元気ですか。僕は冬で寒くてだるいんですがコツコツ原稿を書いたりしています。
今度3月30日(火)にpha、ジェーン・スーさん、能町みね子さんの3人で、ロフトで配信トークイベントをするのでお知らせです。

www.loft-prj.co.jp

共通点はないが接点はある。
電話番号は知らないがLINEグループはある。
そんな3人がたまに集まることがある。
話すと楽しいがなにを話したかは記憶にない。
それを垂れ流す勇気はある。
仕事とかネットとか恋などの話をする予定です。

ときどきこの3人でLINEグループでおしゃべりをしたりしているのですが、イベントをやるのは初めてです。40代の3人で仕事やネットや恋の話などをしたいと思います。
僕の書いた『夜のこと』を、スーさんと能町さんには同人誌版から見てもらっていて、そのへんの恋愛の話もよく話していたので、このイベントでもそのあたりの話もしたいですね。
僕の『夜のこと』は恋はするけど固定した関係性が苦手だという話で、能町さんの『結婚の奴』は恋はいらないけどパートナーがほしいという話で、スーさんは恋愛はしたいけど結婚には興味がない「未婚のプロ」で、そのへんのスタンスが三者三様なので話すと面白いかなと思っています。

夜のこと

夜のこと

  • 作者:pha
  • 発売日: 2020/11/20
  • メディア: Kindle版
結婚の奴

結婚の奴

  • 作者:能町 みね子
  • 発売日: 2019/12/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

今度のイベントの参考に、前にスーさんと僕とでやった対談も貼っておきます。

wotopi.jp

3月30日、お待ちしています!

面白かった本2020

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毎年まとめているコーナー、もう7年目です。


面白かった本2019 - phaの日記
面白かった本2018 - phaの日記
面白かった本2017 - phaの日記
面白かった本2016 - phaの日記
面白かった本2015 - phaの日記
面白かった本2014 - phaの日記


2020年は少し前の小説とかを多く読んでいて最近のをそんなに読んでなかったかもしれない。大体12冊くらいを紹介しようと思います。それでは行きます。

武田砂鉄/大石トロンボ/山下賢二/小国貴司/Z/佐藤晋/馬場幸治/島田潤一郎/横須賀拓『ブックオフ大学ぶらぶら学部』

書店主、古書店主、ライター、せどらーなど、さまざまな立場のブックオフ好きの人たちが、それぞれのブックオフについての思い入れを語った本。読むと、ゼロ年代くらいの頃、ブックオフに行くのは本当にわくわくして楽しかったな、という気分を思い出してしまう。今でもそれなりに楽しいけど、あの頃ほどではないんだよな。まあ今でも3日に一度くらいは行ってるんですが……。
そんなにワクワクしなくなった理由は、ブックオフが当時に比べてちゃんとした値付けをするようになったからというのがあるだろう。昔はもっと雑な値付けで、宝探し感が今より強かった。商売としては今のほうがマトモなんだろうとは思う。
どの文章もとてもいいのだけど、そのあたりの値付けなどの事情について、せどらー視点から解説した「ブックオフとせどらーはいかにして共倒れしたか~せどらー視点から見るブックオフ・クロニクル」が個人的に一番面白かった。僕も無職になってからしばらくはせどりをやってたのでわかる話だらけだ。単Cとかビームとか。
昔はブックオフの棚をざっと見ると、一瞬でいい本があるかどうかがなんとなくわかった(気がした)のだけど、今は棚を前にしてもよくわかんなくなってしまった。棚のスキャン力がすっかり落ちてしまったな。

「ブックオフって、やっぱり時間を超えたものに出会える場所なんですよ。昭和のものにも出会えるし、平成のものにも出会えるし、令和のものにも出会える。その面白さがいちばんの魅力じゃないですかね」

――山下賢二(ホホホ座)

大原扁理『いま、台湾で隠居してます』

いま、台湾で隠居してます

いま、台湾で隠居してます

東京の郊外で週2日だけ働いて隠居生活を送っていた大原くんが台湾に引っ越したという話は知っていたのだけど、どんな生活をしているのだろうと見てみたら、台湾でもあまり変わらない隠居生活をしていてすごくよかった。台湾らしいことは特にしない、人と会わない静かな生活をわざわざ台湾でやっているというのがいい。海外生活というのはいろいろ大変じゃないか、と思うけれど、この本を読むと意外とハードルが低そう、という気持ちになる。むしろ日本よりゆっくり暮らせるのでは、と思えてくるくらい。
同じく海外で自分の地道な生活を追求している本として、香山哲『ベルリンうわの空』が好きな人ならこの本も好きだと思う。

ebookjapan.yahoo.co.jp


能町みね子『結婚の奴』

結婚の奴

結婚の奴

  • 作者:能町 みね子
  • 発売日: 2019/12/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

一般的な恋愛や結婚に違和感や反感を持ちながらも、性的対象ではない人と「結婚(仮)」をするという話。結婚って、生活とか財産とか子育てとか性的関係とか、いろいろな要素が複合しすぎているので、それを分解して一部分だけ活用するというのはありだと思う。人生の全てを共にするわけじゃないけど、ある程度生活を共有するパートナー的な人というのはいていい。
僕も普通に恋愛して結婚をするというのにしっくりこない人間なので、共感するところが多かった。本当に切実なことだけを書いてある感じでよかった。

春日武彦『鬱屈精神科医、占いにすがる』

鬱屈精神科医、占いにすがる

鬱屈精神科医、占いにすがる

私小説のようなエッセイのような曖昧な感じで、特に大した事件は起こらず、春日先生がひたすら自分の中を掘ってるだけなんだけど、すごく面白くて好みの本だった。ひたすら内向的なのがいい。還暦を超えてそれなりに偉くなっても、もう亡くなった母親との関係にこだわっていたり、自分の顔について気にし続けていたりするものなんだな。一生悩んでいくしかないのか。

たみふる『付き合ってあげてもいいかな』

大学生の女性と女性の恋愛の漫画。いわゆる「百合」みたいなのはあまり手を出さないのだけど、たまたま読んだこれはよかった。
好きだとか嫌いとかそういう感情のやりとりや変化が丁寧に描かれていてよい。女同士の恋愛の話ということで、男女間の恋愛よりも性差とか社会的位置づけとかがない分、恋愛というものが純粋に描かれている気がする。大学生という何も背負ってない立場なので、ややこしいことを考えずに恋愛を純粋に考えられるところもいい。歳を取ると社会のこととか人生のこととか、男女だったら法律婚するかとか子供を作るかどうかとか、いろいろ考えることが増えてきちゃうからな。

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長田悠幸・町田一八『SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん』

地味で変な女教師にジミヘンの霊が取り付いてバンドを始めるという、設定だけ聞くとと出落ちみたいな漫画だけど、すごく面白いので読んでほしい……。略称シオエク。霊は『ヒカルの碁』で言う藤原佐為的なポジションなので、メインで動くのは生きてる人間たち。ジミヘン以外にも27歳で死んだロックミュージシャンの霊がたくさん出てくる。
ストーリーは、人生に挫折したり迷ったりしている人が、音楽や仲間をきっかけに、迷いを晴らして前向きになる、という王道的なエピソードなのだけど、絵も話もキャラも異常にクオリティが高くて、どのエピソードを読んでもアツくて涙が出てしまう……。
カート・コバーンの霊のエピソードがニルヴァーナが好きな僕としてはたまらなかった。カートがあんなに嫌いだったあの曲があんなことに……。




絲山秋子『イッツ・オンリー・トーク』

イッツ・オンリー・トーク

イッツ・オンリー・トーク

  • 作者:絲山秋子
  • 発売日: 2014/01/10
  • メディア: Kindle版

絲山秋子さんの小説はこれまで読んだことなかったんだけど、初めて読んだこの本はめちゃめちゃ気に入って何回も読み返した。デビュー作のこの作品から始めて、他の作品も少しずつ読んでいっている。
蒲田に引っ越した女性がいろんな男とセックスをしたりしなかったりする話。セックスをあまり特別視していなくてカジュアルなところがいい。文体は湿っぽくなくて簡潔で美しい。出てくる男性は全員いいのだけど、中でも「痴漢」氏が好き。

アガサ・クリスティ『春にして君を離れ』

自分は良き妻で良き母としてずっとふるまってきた、と思っていた女性が、実はそうではなかったかもしれない、ということに気づいていく話。
アガサ・クリスティの作品を読むのは初めてで、70年くらい前の本だしそんなに期待していなかったのだけど、内容は全く古く感じなくて、とてもよかった。冒頭から引き込まれる展開で、そのあとも語りの上手さでするすると読まされて、最後までずっと面白かった。
いわゆるミステリではない。人が死んだり明らかな謎があるわけじゃない。でも隠されていた真相が徐々に明らかになるというのはミステリ的なのかもしれない。そのあたりの語り方がすごく上手い。ほぼ回想だけで進められているのに、こんなに面白いというのもすごい。
読んでいると自分の家族のことを思い出してしまった。あれは普遍的なものだったのか。

三宅香帆『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』

有名な名作小説の楽しみ方を教えてくれる本。慣れてないジャンルのものって、一人で入門するよりも先達に解説してもらったほうが楽しめるもので、よいガイド役になる本だと思う。紹介されている20冊中読んだことがあるのは9冊だったけど、あとの11冊についてもなんとなく読んだような気になった。
ヘミングウェイ『老人と海』の解説で、小説は、映画よりも漫画よりも自然をリアルに生々しく感じることができるメディアだ、という話があって、それは考えたことがなかったので意外だった。確かにそうかもしれない。

最果タヒ(文)及川賢治(絵)『ここは』

ここは

ここは

  • 作者:最果タヒ
  • 発売日: 2020/06/25
  • メディア: 単行本

最果タヒ初の絵本。
最果タヒさんの書くものにはいつも、宇宙から人類全体を俯瞰するような視点と人類の個々の営みへの慈しみが両立していると思うのだけど、この絵本もまさにそんな本質的な本だった。動きがないのに視点ががんがん動いていくのがサイケ。自我も世界認識もまだぜんぜん固まってない5歳児くらいになってこの本を読みたい、と思った。

阿波野巧也『ビギナーズラック』

ビギナーズラック

ビギナーズラック

歌集。短歌を読むとやっぱり落ち着くな……。舞台が僕が学生時代を過ごした京大近辺だというのもあって馴染み深い。
まだ最後まで読んでないけど、いいなと思った歌。

ぼくもあなたも大人になって生活のあちらこちらで見つけるさなぎ

「さなぎ」がいい。実際はさなぎなんて見つけないんだけど、日常の裏側に潜んでいる不穏さの象徴って感じで。

雨の降りはじめが木々を鳴らすのを見上げる 熱があるかもしれない

なんかこういうのを見ると若いな! 若いっていいな!という気になってしまう。こういう感性はもう自分から失われてしまったな。

モノレールが夜景を開く この町と知らない町の緩い連続

視界を表す歌にいいのが多いなと思った。「コカ・コーラを瓶からついでくれるときぼくの視界はゆっくり縮む」など。

冬と春まじわりあって少しずつ暮らしのなかで捨ててゆく紙

「紙」がいい。そうなんだけど言われないと意識しない部分。

永遠のような始発を待つ春の、羽生善治のことを話した

「しはつ」「はる」「はぶ」「よしはる」「はなした」という「は」音の繰り返しが口に出すと気持ちいい。同音の繰り返しには催眠性がある。こんな情景は体験していないのだけど、なんだか体験したような気になってしまう。

樋口由紀子『金曜日の川柳』

金曜日の川柳

金曜日の川柳

  • 作者:樋口由紀子
  • 発売日: 2020/03/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

いろんな川柳を紹介した本。川柳ってよく知らなかったけど、575で俳句と同じ形式なのに俳句との違いは確かに感じる。俳句が「AとB」を並べるものだとしたら、川柳は「Aは〇〇だった」で終わるみたいな感じ? なんかぬけぬけとして掴みどころなく投げ出されている感じが結構好きかもしれない。
川柳は俳句に比べて情報が圧縮されてなくてそのままで(俳句の季語や切れは圧縮の技法なのだろう)、想像させる部分が少なく全部説明されていて、その上で残る不思議な感覚がある、という感じがした。帯の「どうして、こんなことをわざわざ書くんだろう。」というフレーズがよい。

いっせいに桜が咲いている ひどい   松木秀

楽しいに決まっているさ曲がり角  髙瀬霜石

世界からサランラップが剥がせない  川合大祐



最後に、まだ冒頭のほうしか読んでないのでちゃんと紹介できないけど、これは絶対おもしろいだろうという本も簡単に載せておきます。

幻覚剤は子供の頃に世界を見ていた視点を取り戻させてくれるとかいう話。
いつかたこぶねになる日: 漢詩の手帖

いつかたこぶねになる日: 漢詩の手帖

漢詩とエッセイの組み合わせ。前作に引き続き、エッセイが異常に上手い。
広い世界と2や8や7

広い世界と2や8や7

  • 作者:永井祐
  • 発売日: 2020/12/18
  • メディア: 単行本
短歌界を揺るがした永井祐8年ぶりの第二歌集。



2020年の本はこんなところで。2021年もたくさん面白い本が読めますように。

ライブハウスは怖くない

12月19日(土)、四谷アウトブレイクで、「東京Alien Vol.7 ~令和2年のクリスマス・テロル~」と題して、エリーツ(海猫沢めろん、佐藤友哉、滝本竜彦、pha、ロベス)の初ライブを行います。来場も配信(一週間後まで視聴可能)もどちらもあります。対バンは変拍子プログレパンクバンドのてろてろです。


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一生に一度はライブハウスでライブをやってみたい、と思って去年から始めたバンド活動。


card-media.money.rakuten.co.jp


会場では感染症対策を行った上で、少なめの人数で余裕を持って見られるように配慮しています。ライブハウスといえば狭くて窮屈というイメージがあると思いますが、コロナの影響でむしろ今はゆったり見れる空間になっています。

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エリーツの5人


ライブでは以下のようなコンテンツを予定しています。


・滝本竜彦による、年末年始と2021年全体をアップデートし幸運をもたらす瞑想
・エリーツ渾身の歌と演奏とラップ
・作家たちがクリエイティビティの秘密について語るトークライブ
・メンバーのサイン本やレアアイテムがゲットできるエリーツミニ書店


文学フリマ東京で大反響を巻き起こした、佐藤友哉による鏡家サーガ最新作が掲載された『ELITES Vol.2』も販売致します。
また、来場者にはエリーツのメンバー全員によるここでしか手に入らない書き下ろしペーパーと、特製ステッカーを配布します。


他ではなかなか見られないような珍しいものが見られると思うので、この2020年という奇なる年の締めくくりにぜひ来てください! チケットは以下のリンク先から買えます。


hor-outbreak.com


それでは、ライブハウスでお待ちしています。

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エリーツの5人


natalie.mu


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見てね

恋とセックスに振り回された人生だった

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今までにあまり書いてこなかった恋愛やセックスの話を書いてみようと思ったのは四十歳になったのが一つのきっかけだった。
書いてはこなかったけれど、それは自分の人生の中ですごく重要な位置にあるものだった。
もともと自分は引っ込み思案で人と積極的に関わろうとする性質ではない。なので、恋愛感情や性的衝動に突き動かされることがなければ、もっと内向的で変化のない人生を送っていただろう。恋愛や性欲というのは閉じている自分を切り開いてくれるものだった。それはときどき妄想に近くなって、人に迷惑をかけたりもするものだったけれど。
三十代も終わり、自分の中の衝動が少し落ち着いてきたのもあって、自分のこれまでの右往左往を振り返ってみたいと思った。これを書かないと自分の人生が前に進まない、と思ったのだ。


最初は恋愛のことだけを書くつもりだった。だけど、恋愛というのは人生のさまざまな要素に絡んでくるものなので、結局、自分の人生全部の総決算のような内容になってしまった。
なぜ定職につかずにふらふらと生きてきたのか、なぜ結婚をしたりするのではなくずっとシェアハウスに住んでいたのか、そしてなぜシェアハウスをやめたのか。そうしたことを全部この小説の中で書き切ってしまった。
こんなに自分の中のものを全てさらけ出してしまったら、自分の人生が空っぽであったことがはっきりわかってしまって、このあと死んでしまうんじゃないか、と思うくらいの気分だ。『豊饒の海』を書き上げてすぐに腹を切ってしまった三島由紀夫のように*1。いや、多分死なないけど。


そんな感じで書いた僕の初の小説『夜のこと』が扶桑社から11月15日に発売予定です。興味を持った方は読んでみてください。同人誌版(全2巻)にかなり書き下ろしを加えて、1.5倍くらいの分量になっているので、同人誌版を既読の方も読んでほしいです。

夜のこと

夜のこと

  • 作者:pha
  • 発売日: 2020/11/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


大ざっぱなあらすじとしては、自分の今までの恋愛遍歴を元に小説にしたもので、二十人くらいの女性が出てきてセックスをしたりしなかったりする、さまざまな夜の話を集めた短編集です。
以下は本文からの引用です。

 今年の終わりに僕は四十歳になる。人生で一番恋愛沙汰が多かった三十代が終わろうとしている。
 歳をとるにつれて、少しずつ恋愛感情や性的衝動が減退してきているのを感じていた。ならば、記憶と性欲が薄れてしまう前に、体験したことを書き残しておきたい、と思ったのだ。
 シェアハウスで真上の部屋に住んでいた女性の話。ネットで知り合っていきなりセックスをした女性の話。カッターナイフをいつも手にしていた女性の話。夫と彼氏が両方いた女性の話。
 そんな話を次から次へと書いては、僕は彼女に送り続けた。恋バナが好きな彼女は、送るたびに「面白い」と言ってくれた。


短編の試し読みの第1回がウェブで公開されています。週一のペースで全4回が公開される予定です。

joshi-spa.jp


[追記1]
好きな物書きのお二人である、最果タヒさんとこだまさんに帯コメントを書いてもらいました。
www.cinra.net

最果タヒのコメント
「そこまでして幸せになりたいか? もう、面倒じゃね?」っていう人類の本音が、たくさん読めて幸せです。

こだまのコメント
こっそり書いてみたくなる。情けなくて後ろめたい「夜」のこと。昼と夜がつながらない人生のこと。
行き場を失った小説にはそんな力があった。

phaのコメント
20人くらいの女の子が出てきてセックスしたりしなかったりする短編集です。私小説は自分の恥ずかしい部分を出せば出すほど面白いと思っているので、隠さずに全部さらけ出しました。恋愛、セックス、交際、結婚は全部違っていて、その「ずれ」の中で考えたことを書いています。


[追記2]

序盤の導入部分の試し読みです。よかったら読んでみてください。

fusosha.tameshiyo.me


[追記3]
インタビューや対談を以下に追加していきます。

nikkan-spa.jp

著書『愛や家族を探して』で、普通の形にとらわれないさまざまな家族の形を紹介している、佐々木ののかさんとの対談です。恋愛、セックス、交際、結婚、それらをひとまとまりのものとして扱うことへの違和感の話などをしています。


ddnavi.com

ダ・ヴィンチニュースでのインタビューです。「恋愛は、惰性を打ち破るエネルギーになる」という話が好きな部分です。あと、悩んでいる人はみんな文章を書くといいと思う。

*1:この件については橋本治『三島由紀夫とはなにものだったのか』がすごく面白い本です