phaの日記

パーティーは終わった

死に関する本5冊



モダンファートというサイトで死生観について語ったインタビューが公開されているのですが、

modern fart | 「何歳まで生きますか?」phaさんに聞く【前編】
modern fart | 「何歳まで生きますか?」phaさんに聞く【後編】

その中でも「人間臨終図巻」について言及しているように昔から死に関する本を読むのが好きだったので、この機会に好きな本を紹介してみようと思います。

カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

抑制の効いた繊細な筆致で、ある学園で暮らす少年少女の日常風景や些細な出来事、恋愛をしたり友達と仲違いをしたり将来に夢を持ったりという、感情の動きや成長していく様子が丁寧に描写される。だけどそれだけの純文学的な小説ではなく、SF的な世界設定を持っていて、実は彼らは■■■■のために■■している■■■■で、彼らの行く先には凄惨な運命が待ち構えている。

筆力があって登場人物の感情が細かくリアルに感じ取れるだけに、過酷な物語展開がつらい。どこかに救いがないかと探すけれどあまりない。彼らはどうしてあんなに大人しく自分の運命を受け入れるのだろうか。どうせ■■して■■するのなら生きていることが虚しくならないのだろうか。

そこまで考えて思う。どうせいずれ■■するのは別に彼らだけじゃない。僕らだって本質的には何も変わらない。ただ僕らは普段それを見ないようにして、忘れているだけだ。世界の本質はそのように残酷なものだ。それでも生きる人間の意味というのは何なのだろう。彼らの人生に意味がないのなら、僕らの人生にも同じように意味がないのは確かだ。

福本伸行「天 天和通りの快男児」

天―天和通りの快男児 (18) (近代麻雀コミックス)

天―天和通りの快男児 (18) (近代麻雀コミックス)

この「天」は基本的に麻雀漫画なんだけど、全18巻のうち最後の3巻か4巻ぐらいだけ、麻雀雑誌に載っている麻雀漫画なのに全く麻雀をしないという異例な展開になる。そこでは主要登場人物の一人、「天」より有名になったスピンオフ作品の「アカギ」の主人公でもある、天才・赤木しげるの死について語られる。麻雀に興味がない人もその最後の部分だけ読むと面白いかも。

赤木しげるは53歳でアルツハイマーに侵され、思考能力や記憶力を奪われていく。赤木は自分が自分でいるうちに自分にケリをつけようと安楽死を選ぼうとする。その赤木の「通夜=安楽死を決行する日」に集まった赤木の友人たちが赤木が死ぬのを引きとめようとして、ひたすら赤木と他の登場人物の「死」と「生」を巡る会話が繰り広げられる。



赤木の自ら死を選ぶ気持ちは理解できるけれど、多分実際はそこまで割り切って死を選べる人間はいなくて、みんな死を前にしてがたがた騒いだり取り乱したりしてしまうんだろう。でも赤木の選択はそれほど普通の人からかけ離れたものではなく、多くの人の中にもある気持ちだと思う。

この台詞が一番印象に残っている。

エリザベス・キューブラー・ロス「死ぬ瞬間」

死ぬ瞬間―死とその過程について (中公文庫)

死ぬ瞬間―死とその過程について (中公文庫)

  • 作者: エリザベスキューブラー・ロス,Elisabeth K¨ubler‐Ross,鈴木晶
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2001/01
  • メディア: 文庫
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病気の末期段階で死が近い患者たち約200人にインタビューし、人がどのように死を受け入れるかを描いた本。この本では人は死が近くなったときに、死について以下のような段階を経ていくとされている。

  • 第1段階 「否認」 - 「死ぬなんてそんなはずはない」と否定する
  • 第2段階 「怒り」 - 自分が死ななければいけないことに憤慨する
  • 第3段階 「取引」 - 「◯◯するのでどうか命を助けてください」などと神にすがる
  • 第4段階 「抑うつ」 - 無力さを感じて抑うつ状態に陥る
  • 第5段階 「受容」 - 安らかに死を受け入れる

僕もいずれこのような段階を経て死を受け入れるのだろうか。いやだ……。死にたくない……。でも絶対にどうしたってそれは他人事ではなく、必ず自分に訪れるものなんだよな。死ぬ間際になって「もっと人生であれをやっておけばよかった」なんて思わないように生きたい。

山田風太郎「人間臨終図巻」

人間臨終図巻1<新装版> (徳間文庫)

人間臨終図巻1<新装版> (徳間文庫)

人間臨終図巻2<新装版> (徳間文庫)

人間臨終図巻2<新装版> (徳間文庫)

人間臨終図巻3<新装版> (徳間文庫)

人間臨終図巻3<新装版> (徳間文庫)

人間臨終図巻4<新装版> (徳間文庫)

人間臨終図巻4<新装版> (徳間文庫)

古今東西いろんな著名人の死ぬ間際の様子だけを、若い方からひたすら年齢順に並べた本。偉人たちがどんな風に活躍したかは有名でも、どんな風に死んだかは知られていないことが多い。若い頃に栄華を極めて成功したとしても、老いて死の間際になると孤独だったり病魔に侵されて悲惨な状況だったりする人も多い。

この本の圧巻とも言える箇所は、90歳で死んだ武者小路実篤が死ぬ間際に痴呆が始まっていて、にもかかわらずその書いた文章がタウン誌「うえの」にそのまま掲載されたというエピソードだ。

これはゴッホの自画像について書いたもの。

彼はその画をかいた時、もう半分気がへんになっていたろうと思うほど神経質な顔になっていたように神経質な顔をして、この顔を見ればもう生きていられないような、神経質な顔をしていた。僕はこれでは生きていられないと思った。実に神経質な顔をして、もう生きていられないほど神経質な顔をしていた

児島という知人について書いたもの。

児島が、電車で死をとげた事を知った時も、僕は気にしながら、つい失礼してしまった。児島にあえば笑ってすませると思ったが、失礼して、今日まですごして来たわけだ。もちろん逢えば笑ってすませることだろうと思う。児島とあえば笑ってすませるのかもしれないが、児島のことを思うとつい笑ってすまない顔をしてしまうかも知れない。児島は逢えば笑ってすませる所と思うが

人生についての文章。

僕は人間に生れ、いろいろの生き方をしたが、皆いろいろの生き方をし、皆てんでんにこの世を生きたものだ。自分がこの世に生きたことは、人によって実にいろいろだが、人間には実にいい人、面白い人、面白くない人がいる。人間にはいろいろの人がいる。その内には実にいい人がいる。立派に生きた人、立派に生きられない人もいた。しかし人間は立派に生きた人もいるが、中々生きられない人もいた。人間は皆、立派に生きられるだけ生きたいものと思う。この世には立派に生きた人、立派に生きられなかった人がいる。皆立派に生きてもらいたい。皆立派に生きて、この世に立派に生きられる人は、立派に生きられるだけ生きてもらいたく思う。皆、人間らしく立派に生きてもらいたい

それに関する著者のコメント。

脳髄解体。――――

その山田風太郎翁も既に鬼籍に入ってしまいましたが。

鶴見済「完全自殺マニュアル」

完全自殺マニュアル

完全自殺マニュアル

1993年発行なのでもう20年近く前の本なのか。僕は十代後半の頃、「完全自殺マニュアル」や「人格改造マニュアル」や「檻の中のダンス」などの鶴見済さんの本にかなりガツンとやられて、僕が書いた「ニートの歩き方」にもかなり影響が出ていると思う。

僕は自殺を考えたことはそんなになかったんだけどこの本を読んだのは、これは別に死ぬための本ではなく生きるための本で、生きることに過剰な価値や期待を持ちすぎてしんどくなってしまったときに、命なんてこの程度の操作で簡単にリセットできる程度のものだ、だから好きに生きればいい、それを知るだけで楽になる、という本だったからだ。

この本が出たのは岡崎京子「リバーズ・エッジ」的な90年代の閉塞した雰囲気を打ち破るものとしての文脈だったと思うけど、社会的な雰囲気がすっかり変わった今でもAmazonのレビューを見ると新しいコメントが付き続けていて、射程の長い本だなと思う。

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明後日10月2日に阿佐ヶ谷のロフトAというところで本の出版に伴うトークイベントを開催するので、もしよかったらご来場ください。

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あとこんなウェブラジオも公開されています。