「今度はどんなものができましたか」
「<ムニエル>という言葉を三つ書いてみました」
「ほう」
「これです。違いがわかりますか」
「むう、、、三つとも全く違った雰囲気ですね」
「一番左の<ムニエル>は、ムニエルのことを考えながら書きました」
「確かにムニエルっぽい感じがしますね」
「真ん中の<ムニエル>は、『別にムニエルって書きたいわけじゃないし、ムニエルについて何かを伝えたいわけでもないけど、ていうかそもそもムニエルのことなんてどうでもいいよ。それなのに<ムニエル>って書いてみる』という心持ちで書いたものです」
「うーん、字に全く説得力がないですね。とても嘘っぽい。ムニエルに興味がないくせによくこんなに臆面もなくぬけぬけと<ムニエル>なんて書けるものだ。本物のムニエルが見たら怒りますよ、これは」
「まあ、ムニエルにどんなにひどいことをしてもムニエルは傷つきませんから」
「確かにそうですが」
「一番右の<ムニエル>は、ぜんざいのことを考えながら<ムニエル>と書いてみました」
「これは、、、全く違った味が無理矢理ぶつけあわされる気持ち悪さ、イメージとイメージの間の軋轢が字の歪みから伝わってきます。悲鳴をあげているようだ。残酷な、、、」
「まあ、ムニエルもぜんざいも文句を言いませんから」
「それにしてもちょっとかわいそうになってきますね、私なんかは」
「どうしますか?」
「じゃあ、真ん中の<ムニエル>をください」
「ありがとうございます。二千五百円になります」