正月は熱海でぼーっと本を読んだりネットを見たりしていたんだけど、熱海で読むのに合ってると思って本屋でこの本を買っていって読んだ。著者のブログによるとこの本結構売れてるみたい。(島田裕巳official blog - livedoor Blog(ブログ))
- 作者: 島田裕巳
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2007/11
- メディア: 新書
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なぜこの本が熱海に合ってるかというと、熱海を拠点とする世界救世教という教団が取り上げられていて、前から世界救世教についてちょっと知りたいと思っていたからだ。
熱海にはMOA美術館という美術館があって、結構いい所蔵品がある(国宝が3つあるらしい。まだ行ってないんだけど)し、能舞台とかを持っていて能を定期的にやっていたりして熱海の良い観光スポットの一つなんだけど、このMOA美術館が世界救世教の運営によるものなのだ。ちなみにMOAというのは「Mokichi Okada Association」という意味で、世界救世教の創始者の岡田茂吉の名前から来ている。熱海にはこのMOA関係の施設がMOA美術館以外にもたくさんあって街をぶらぶらしてるとよくMOAの文字を見かける。そういうことがあって世界救世教という宗教についてちょっと気になっていた。
で、この本を読んでみたんだけどかなり面白かった。新書の厚さだし10教団(以上)も取り上げているのでそこまで深い専門的な内容ではないんだけど、それぞれの教団の概要や興味深いエピソードをわかりやすく手早く知ることができるという点ではすごくよくまとまっていて良い読み物でした。
そしてこの本の新宗教を語るときのスタンスが、批判はせず客観的な立場から淡々と記述する、というものだったのが良かった。宗教について語るといろいろややこしい問題が絡んでくることが多いけれど、この本ではそういったややこしいところには触れず、淡々と記述するに止めている。多数の新宗教を見てきた著者がさまざまな新宗教の教団を比較しながら客観的な分析をするさまは、まるで新宗教のコンサルでもやっているかのようにも思えるくらいで面白かった。
例えば
- 「手かざし」というものを重視するシステムだと、手かざしは誰でも習得が比較的容易だし複雑な教義も必要としないので、教団から独立しやすく分派が生まれやすい
- 「終末」というものを教義に盛り込むと(「もうすぐ終末がやってくる」など)、求心力は強く信者も急激に増え信者のテンションは高いが、終末があんまり先でもだれるしあんまり最近だと終末が来なかったときに困るので、長期間安定して維持して行くのは難しい
- 「終末」や「世直し」など現在の世界をデストロイするような教義がないと、安定して穏やかな雰囲気な教団になるけれど、その代わりあまり急激に発展しにくい
- 「現世利益」を説く宗教はやっぱり強い(病気が治るとか仕事がうまく行くとか)
- 勧誘が強引だと信者が集まるが社会から批判される、勧誘しないと社会と共存しやすいが信者が集まらない(まあこれは当たり前だけど)
- 宗教系の高校は野球が強い
- 経済が発展している時期に宗教も伸びる(創価学会などは高度経済成長期に伸びた)。経済が停滞している時期はかえってみんな宗教に目を向けない
- 現在伸びている宗教は「スピリチュアルブーム」や「カウンセリング」の延長のような現代的なものだが、そういう教団は熱狂性に欠けるのでこれから大きく伸びることはなさそうだ
- 一度大教団に入って運営のノウハウを知ったあと独立して自分の教団を作る人が多い
この本を参考に、教義、教祖のタイプ、集会のタイプ、活動のタイプ、本拠地なんかを決めて新宗教を作ったらうまく教団を運営できるんじゃないかなーとか思えるくらいだ。
この本が面白かったので、この本でも取り上げられなかった他の新宗教の教団についても読んでみたいと思ってる。特にオウム真理教について取り上げた本があったら読みたいんだけど、なんかいい本あったら誰か教えてください。
(この本が好評なので続編が出るかもしれないらしく、そこに入る可能性もあるが)
最後にこの本で取り上げられている教団の一覧と、それぞれの教団ごとに印象に残った点を簡単に書き留めておきます。
- 天理教
- 宗教都市・天理市
- 戦後における布教の失敗
- 大本
- 他の新宗教に大きな影響
- 出口王仁三郎の破天荒っぷりが面白い。出口王仁三郎についてはもっと何か読みたい。
- 生長の家
- 哲学的でインテリなイメージだが、現世利益を強調することで大衆化にも成功
- 海外の信者のほうが日本の信者より多い(ブラジルなど)
- 天照皇大神宮教と璽宇
- 天照皇大神宮教:北村サヨの言語感覚が面白い
- 璽宇:双葉山と呉清源
- 立正佼成会と霊友会
- 高度経済成長の時代に、田舎から都会にやってきた人を対象にして成長
- 先祖供養が信仰活動の核
- 創価学会
- 当初教育団体として始まったという特殊な出自のため、修行や霊的な信仰や祖先崇拝の要素が薄いらしい
- しかし「仏法は勝負だ」って標語はスゴい
- 公明党と創価学会ってそこまで一枚岩でもないとか?
- 世界救世教、神慈秀明会と真光系教団
- 世界救世教は「手かざし」を教義の中心とする
- 世界救世教系は分派も多いが再統合する場合もあるのが珍しい
- 真光系教団の「真光の業」は「野口整体」における「愉気」と「活元」を霊的に解釈したものらしい
- PL教団
- PLはPerfect Libertyの略
- 「人生は芸術である」という標語が教義の中心にある
- 戦後的価値観にうまく適応
- システムが大規模で複雑なので独立しにくく分派が生まれなかった
- 真如苑
- 80年代半ばにブレイク。信者数では創価学会、立正佼成会に次ぐNo.3
- スピリチュアルではあるがファナティックではなく現代的な雰囲気で信者を集めているらしい
- GLA
- GLAはGod Light Associationの略
- 現在の規模は小さいが教祖の高橋信次は他宗教などに今も熱烈なファンを持つ
- 平井和正「幻魔大戦」に出てくるGENKENはGLAがモデル
- 霊が降りるというとき従来は大体先祖の霊が降りてくるものだったが、そこで古代エジプトやアトランティスの人を降ろすのが新しかった
- この中でもっとも現代的で、スピリチュアルブームやカウンセリングに近い雰囲気